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世界三大投資家

ジム ロジャース氏

「冒険にある煌めきより大切な時間がある」

 ジム・ロジャーズ氏
クォンタム・ファンド共同設立者。ロジャーズ・ホールディングス会長。ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロスと共に称される「世界3大投資家」のうちの一人。バイクで6大陸横断、黄色の改造ベンツで116カ国走破などの冒険経験を持ち、「投資界のインディー・ジョーンズ」「冒険投資家」とも呼ばれている。投資スタイルは「グローバル・マクロ」の先駆けとされ、グローバルな視点で国際情勢、マクロ経済、金融政策から経済トレンドまで徹底的に調査する。そこに自身の冒険で現地から得た情報も加えてポジションをとる。投資対象も株式から、通貨、先物などと多様。アメリカ合衆国、アラバマ州出身。現在は家族と共にシンガポール在住。
「ラグジュアリーな旅」と聞き、人はどのようなイメージを持つか。ハイエンドトラベルをイメージするのは容易い。類まれなる人生を歩んできた著名なお二人に「ラグジュアリー」について語って戴いた。

好奇心の先にある、冒険投資家という生き方

書斎で語るジム氏。彼の書斎には世界中から集められたアートが並び、絨毯には世界地図の刺繍が施されていた。
旅を愛し行動派の彼の人生の思い出が詰まった部屋だ。

誰も見たことのない場所へ

旅において重要なことは何か。その問いを受けて、ジム氏はまず「旅」というワードを「冒険旅行」と言い直した。ジム氏にとって、旅とはすなわち冒険のことなのだ。「旅の醍醐味は、新しく、エキサイティングな体験にある。他とはまったく違う、奇妙で不思議で、危険とさえ言われているような場所。そういったところにこそ行く価値がある。」氏は、2度の世界一周の体験を持つ。そのどちらもが、想像を超える豪快さだ。初めての世界旅行は、1990年3月から1年8ヶ月。BMWのオートバイで、恋人を伴って世界6大陸を渡り、15万キロを走破。ギネスブックに記録された。次の世界旅行は1999年1月から3年半。改造した黄色のメルセデス・ベンツで、新しい恋人と共に116カ国、24万5千キロを制覇。この旅もギネス記録となった。「まだ誰も行ったことのない、誰も見たことのない場所に行くのが好きなんだ。」世界旅行の途中には、当時の発展途上国やアフリカの紛争地帯、サハラ砂漠や数々の秘境など、冒険と呼ぶにふさわしい場所を訪れている。「誰からも、そんな危険なところには行くべきじゃないと言われたよ。ただ、実際にはその地で私は大いに笑い、とても幸福な時間を過ごしたよ。」そう言いながら、ジム氏はかつての冒険旅行を思い出しているかのようだった。「ニューヨークにいれば、バスに轢かれて死ぬかもしれない。それってハッピーじゃない。少なくとも冒険の最中に死ねるならハッピーだ。死にたくはないけれどね。」

冒険投資家という職業

ジム氏は、チャレンジを愛し、フロンティア精神あふれる人物だが、ただの冒険家ではない。おそらく世界でただ一人の「冒険投資家」である。世界一周しながら、訪れた国の経済や政治状況を調査し、現地の環境に身を置いて投資の機会を探る。鋭い観察眼と深い洞察力によって、その国の成長性を慎重かつ大胆に判断するのだ。現地に出向き、自身の目で見て、自身の頭で考える事が大切だと、ジム氏は考えている。TVやWEBに溢れている情報や、他の誰かが言っている事を参考にしない。中国、インド、アフリカなど、当時、多くの発展途上国へ旅をしていたのは、ジム氏の冒険心を満足させるためだけではない。現地の人々から変化を肌で感じ取ることで、「将来成長する国はどこか」の判断材料を自ら仕入れるためでもある。徹底した現場現実主義であり、机上で思考するビジネススクールは無駄と切り捨てている。サハラ砂漠縦断では、正しい道かどうかも分からないまま、車の轍を頼りに進む場面など、ジム氏の体験談は冒険物語として一級品である。同時に、ジム氏の投資への考え方は、グローバルな視野と現地感覚とを融合させ、独自の明確な論理に裏付けされている。並外れた行動力に、優れた論理性や洞察力を持ち合わせていることが、ジム氏を複雑で魅力的な人物にしている。

投資家としての成功

いうまでもなく、ジム氏はウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロスと並び称される世界三大投資家のうちのひとりである。5歳の頃に初めてピーナツを売ったという逸話があるほど、ビジネスセンスにおいて早熟だった。
投資との出会いはイェール大学在学中、ウォール街でのアルバイトだ。その頃、金融についての知識をほとんど持っていなかったが、すぐに投資に興味を持つようになる。のちにオックスフォード大学に留学するが、奨学金で株式投資を行なっていたという。オックスフォード卒業後、アメリカ陸軍を経て、1968年ウォール街での仕事を、見習いからスタートさせた。1973年には、ジョージ・ソロス氏と共同で国際投資会社クォンタム・ファンドを設立。10年間で40倍のリターンという驚くべき実績を上げる。しかしジョージ氏との意見の食い違いから、1980年に袂を分かち退社、仕事からも引退した。その後大学で教鞭を執ったり、テレビ番組に出演したり、冒険と投資に関する数多くの執筆やセミナーを行うなど多彩な活動を現在も続けている。クォンタム・ファンドに驚異的な利益をもたらしたジム氏の投資手法は、現代の主要な投資スタイルの先駆けとなった。各国の景気動向、政府の金融政策、政治情勢などを徹底調査し、金融市場に与える影響を予測、そこから今後の価格の上昇・下落を判断して売り・買いのポジションをとる。その投資スタイルは「グローバル・マクロ戦略」と呼ばれている。
ジム氏の明快なロジックと伝説的な実績、そして人間的魅力が合わさって、彼を憧れの師と考える投資家は世界中に多い。このところジム氏が投資対象として興味を持っているのは、アジアだ。北朝鮮の経済開放のタイミングも逃すまいと注視している。ジム氏がどこに投資しているか、これから投資しようとしているかは常に世界中から注目されている。個人投資家の誰もが、ジム氏に会う機会があったら、これからの投資対象についてのアドバイスをもらいたいと思うだろう。しかし、それまで穏やかに話していたジム氏が、強い調子で言った。「私の投資しているところに投資するべきではない。」と。

「自分に投資せよ」

実際、何に投資してどこに注目しているのかと問えば、ジム氏は気前よく教えてくれる。(もちろん秘密にしていることもあるだろう)たとえば、「ロシアの農業の成長に期待している。」とジム氏は言った。「35年前は”ディザスター”だったけれど、今は違う。」ところで、ジム氏の話の中ではときおり「ディザスター(災害)」という表現が飛び出す。経済制裁を受けている国や通貨が暴落している国、実際に災害が発生して混迷しているタイミングなど、問題を抱える国とその状態を意味している。こうした「ディザスター」の中から将来好転しそうな国を選ぶのも、ジム氏の投資信条である。ジム氏は日本株を売り払い、現在は保有していない。他に、北朝鮮の経済開放は近いだろう、中国にはもっと投資したい、今はジンバブエに注目しているなど、投資に対する考えの一端を述べた。そして念押しのように再び言った。「私のやっている事と同じ事をするべきじゃない。たとえば、ジンバブエのことを知らなければ、ジンバブエに投資してはいけないのだよ。」それでは私たちはどうすればよいのだろうか。するとジム氏は、畳み掛けるように語り出した。「私の言うことではなく、テレビでもなく、自分に耳を傾けること。人にとって何が大切かはそれぞれ違うのだから。」「成功したければ、自分に投資しなさい。もっと多くの事を知るために。何に情熱を傾けられるか。その何かが見えたら、自分でわかるはずだ。」「成功した投資家は、自分が何をすべきかを知っている。それがわかるまでは、投資すべきではない。」ジム氏にとっての冒険とは、情熱を注ぐ対象である。同時に、世界で起きている事実を直接捉え、知り得た情報を元に深く考えるための自分への投資でもあった。彼にとって、自分への投資とは、自らの頭で考えるための準備のことなのだ。現在は、娘たちの未来の幸福を願って環境を整える事が、ジム氏にとっての投資だ。ジム氏は、将来性に期待し2007年シンガポールに移住した。娘たちに中国語を習わせているのも、未来への投資なのだ。

合理性とラグジュアリー

投資家としては最近日本への辛口のコメントが多いジム氏も、家族と過ごす場所については日本贔屓である。2度の世界一周旅行でも日本を訪れた。 「一番好きな国は?」 世界中を旅してきたジム氏にとって、これは答えにくい質問かもしれない。 それに対して 「そうだな・・・日本だね。日本では、すべてが高い品質できちんとしていて美しいから。」 がジム氏の答えだった。 「もっとも素晴らしいイタリアンレストランは日本にあるだろう。最高の中華だってそうだ。日本は各国料理のベストを提供しているからね。」 家族での北海道スキーも、ジム氏のお気に入りだ。これまでに何度も訪れているという。 「家族が他に行きたいと言ったけれども、ダメだダメだ、北海道でスキーをやろうと私が主張したんだよ。」 気に入っているホテルとして挙げたのは、ロンドンのクラリッジズ、モスクワのフォーシーズンズ、それに世界中に沢山ある、すばらしいハイアットホテルの数々。 「東京にはすばらしいホテルが多々あるけれど、日本で敵を作りたくないから、日本のホテルの名前は挙げないよ。」と笑いながらも、東京グランドハイアットもお気に入りの一つであるらしいことを明かしてくれた。 そうした会話の中で、ジム氏にとってのラグジュアリーとは何かと問うと、それは「時間」なのだと言う。 「時間だけは買うことはできないからね。時間を買う方法が見つかったら、教えてくれるかな。」 そして、限られた時間を有効に過ごすために 「すべてうまくいっていること(everything works)、 どこにも悪いところがないこと(nothing goes wrong)」 をいつも確認したいというのだ。 たとえばホテルなら、良いジムがあり、マシンやウエイトが全て使える状態で用意されている。 クリーニングを頼んだシャツは、時間通りに美しく仕上がってくる。 レストランでは、素晴らし食事、素晴らしいワインが提供される。 もちろんインターネット・アクセスも完備している。 「全てがうまくいっている」ことが、ジム氏にとってのラグジュアリーなホテルの定義なのだ。 さらに、「スマートなレジャー」として挙げてくれたのは、「プライベートジェット」での旅である。 プライベートジェットなら、空港で無駄な時間がなく効率的だ。乗っている間は、誰にも邪魔されずに家族と過ごすことができる。合理性を好むジム氏らしい選択と言えるだろう。 ジム氏のラグジュアリーとは、心地よく滞在し、つつがなく仕事が進み、美味しい食事やショッピングを家族と楽しめる。そのために必要な環境が高い品質で整えられていることを期待している。 合理性によって大切な家族と過ごす「時間」が作り出せる。それこそが、ジム氏にとってのラグジュアリーなのである。 ジム氏にとって、非日常やロマンは冒険の中に存在している。 ジム氏にとってラグジュアリーとは、冒険の中にある煌きよりも、日常を合理的に過ごす事で生み出される家族との宝物のような時間のことなのだ。 ジム氏のラグジュアリーに対する考えを知って、彼が冒険家であることに改めて思い至った。 冒険とは、決して無謀、無計画な挑戦ではない。 まず、緻密な計画と準備の積み重ねが下地にある。「全てうまくいく」ように確認して整えた上に挑戦があるのだと。それは合理性から生み出されるラグジュアリーな時間と、どこか似ているように感じたのだ。

思いがけず人生の後半に訪れた幸福
唯一の大切な人と過ごす時間

開放的な吹抜けに、大きな螺旋階段が印象的なエントランス。アート性に富んだ、数十個もの地球儀が飾られている。世界中を旅する、ジム氏のこだわりのコレクションである。

冒険投資家にとってのラグジュアリーな時間

インタビューの中で、ジム氏がそれまでとは違った表情を見せたときがある。それはラグジュアリーな時間に話題が及んだときだった。「人生におけるラグジュアリーな時間とは、家族と過ごす時間だ」とジム氏は即答した。そのとき伝説の冒険投資家は、子煩悩な普通の父親の顔になっていた。今年77歳になるジム氏が愛してやまない娘たちは、まだ11歳と16歳。「思いもかけず人生の後半に訪れた幸福」である娘たちだ。ジム氏は「最も大切、いや”唯一の”大切な人」と言いきった。「娘たちは、とても多くの喜びをもたらしてくれた。だから私は、娘たちに多くの幸福がもたらされるのを見届けたいのだ。」と言う。ジム氏にとって「ラグジュアリーな時間」とは、「娘たちと過ごす幸福な時間」とほとんど同義なのだ。時間が足りない、時間だけは買えない、時間こそがラグジュアリーだと呟いたジム氏。その「時間」とは今の時間だけではなく、この先の人生に残された時間のことも念頭にあっただろう。彼女たちの存在は、現在のジム氏の投資に対するモチベーションにもなっている。誰も見たことのない、誰も知らない、新しい場所を求める情熱を絶やさない冒険家。有望な投資先を探し続けて、世界の変化を肌で感じ取り、グローバルレベルでの合理的で論理的な予測を行う伝説の投資家。娘たちの幸福を強く願いながら、共に過ごす時間を大切に考えるアメリカの良き父親。そのすべてが、ジム・ロジャーズ氏の今である。

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