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ソネバ創立者

ソヌ・シヴダサニ氏

インテリジェントラグジュアリーの真髄とは

ソネバ創立者
ソヌ・シヴダサニ氏

ラグジュアリーについて話す時、ソヌ・シヴダサニ氏は経営者というより、哲学者のような、あるいは詩人のような表情になる。
彼の口から溢れ出るのは、「スローライフ」「インテリジェント・ラグジュアリー」「サステナビリティ」といった今日的な言葉だ。
しかしそのコンセプトは、最初のリゾートを立ち上げた時から追求してきたものだとソヌ氏が、いまだ求めてやまない「インテリジェント・ラグジュアリー」とは何か、について語って頂いた。

Soneva Janiソネバジャニ

ルディブ・ヌーヌ環礁にあるメドゥファルー島。全長およそ5.6kmにわたるラグーンに恵まれたソネバグループの最新ラグジュアリーリゾートである。リゾートまでの道のりは、首都マーレの国際空港から水上飛行機で40分、もしくはソネバフシからスピードボートで90分。自然との一体感を大切にするソネバグループの、ホスピタリ溢れるサービスを体感できる。

自分と妻の名前から生まれた理想の島

「ソヌとエヴァの島」を意味する「ソネバフシ」。愛する妻エヴァのために、ソヌ氏が無人島を買い取って創りあげた理想の楽園。ラグジュアリー・リゾートのブランド「ソネバ」は、ソヌ氏個人のロマンチックな物語から誕生した。ソネバフシにドレスコードはない。その代わりに勧められるのは「素足になること」。ソネバフシに到着するとすぐに、「No News, No Shoes」と書かれた袋を渡される。靴を脱いで袋に入れるのが楽園に入る儀式だ。ゲストは靴とともに日常も脱いで、別世界へと入っていく。休日の始まりだ。「No News, No Shoes」の精神は、当時のラグジュアリー・リゾートとしては異色だった。創業は1995年。五つ星リゾートは、物質的な豪華さを競っていた時代である。ソネバフシでは豪華さではなく、建物から家具、小物までナチュラルな素材にこだわっている。大自然と一体になれるオープンな環境の中で自分を解放する。そうした体験こそがラグジュアリーであると、ソヌ氏は当初から考えていた。そして、今もなおソネバの基本理念は「スローライフ」である。「スローライフは、私たちの倫理的な指針であり、実務的な指針でもあるのです。」創業当時はまだ珍しかった「スローライフ」のコンセプトは、業界の基準をはるかに超えるレベルでの顧客のロイヤルティとリピートビジネスへと繋がっていった。「スローライフ」はソヌ氏と妻とのプライベートな理想の楽園から生まれ、やがてソネバやシックスセンシズのブランド価値となり、広く人々に受け入れられていったのである。

ホスピタリティとは細部への心遣い

ソネバのホスピタリティについて尋ねた時、ソヌ氏は「細部への心遣い」であると答えた。「細部への心遣いは、ブランドアイデンティティの中心にあると考えています。ゲスト毎に細やかに配慮したサービスを提供することが、明確かつ強力なブランドアイデンティティの構築に繋がると考え、大いに努力している点です。」常にゲストを喜ばせる方法を探している、というソヌ氏はいくつか例を挙げてくれた。「ゲストの誕生日には、パーソナル・バトラーがサプライズケーキを用意します。ゲストがディナーに出かけている間に、お気に入りのチョコレートをヴィラにそっと置いておくこともありますよ。」ゲストを喜ばせるすべを身につけているのは、パーソナル・バトラーに限ったことではない。
「ハウスキーパーは、ゲストが外出から戻ってくる前にヴィラを魔法のように整えるよう訓練されています。私たちはこれをマジックサービスと呼んでいます。」ちなみに、細やかな心遣いでゲストをもてなすソネバのバトラーの名前は「フライデー」。『ロビンソン・クルーソー漂流記』に登場する、主人公の従者であり、よき相棒の名前から付けられた。実際、ソネバのリゾートには『ロビンソン・クルーソー』の世界をイメージしたレストランもある。ゲストはさながら現代の漂流者といったところだろうか。ゲストを喜ばせようとする、ソヌ氏の遊び心が垣間見える演出である 。「細部への心遣い」の積み重ねによるホスピタリティは、ゲストを再びソヌ氏のリゾートを訪れたいという気持ちにさせている。実際、ソネバのリゾートのゲストのうち、半数はリピーターなのだという。

差別化としての持続可能性

スローライフをラグジュアリー・リゾートに取り入れた先駆者であるソネバ。その成功に追随しようとするリゾートも多い。ラグジュアリー・リゾートの市場競争の中で、現在のソネバが発揮する独自性について、ソヌ氏はどう考えているのだろうか。「ソネバの際立つ独自性は、心地よさを提供する空間、確実に守られるプライバシー。加えて、持続可能な素材を扱うことがいかに素晴らしいかを体現すること。それが私たちの美学なのです。」「例えば、チーク材は避けて、竹とユーカリを多く使用しています。植林して早く成長する上に、希少な素材と同じくらい美しい木材達です。私たちは身近な木材からも自然の美しさを引き出すことができると信じ、こうした行動が私たちの価値を際立たせているのです。」設備やデザインといった面での美しさや快適さに妥協は許さず、その裏で持続可能性のための努力も怠らない。重層的なコンセプトとその実現が、ソネバに深みを与え、特別なリゾートとしているのだ。

希少な体験がもたらすもの

ラグジュアリーとは希少なこと。普段は手に入らないこと。まだ知らないコト・モノに触れたり体験したりすると、心に響いてくる何か。」ソヌ氏が考えるラグジュアリーとは、物質的なものよりも、精神的なものなのである。目に見えるものより、目に見えないこと。希少な体験からもたらされる喜びや幸福感からくるものらしい。このソヌ氏のラグジュアリー観とも言えるものは、イギリスの片田舎に住んでいた頃の自身の体験が元となっている。自然を感じ、自然と共生できる環境で、ゆったりと時間は流れ、食べるものもおいしい。そこで幸福感に包まれた体験をゲストにも同じように提供したい、というのがソヌ氏の原体験とも言えるだろう。
ラグジュアリーについて考えるとき、その消費者として想定するのは都市生活者だとソヌ氏は言う。「過去30〜40年の間で、富裕層に人口統計上の大きな変化が見られます。現代のラグジュアリー・リゾートのゲストは、郊外よりもロンドン、パリ、ニューヨーク、東京といった都市部からやってくるのです。彼らは様々な箱に住んでいると言えるでしょう。アパート、車、オフィスなどです。そうした箱は常に汚染物質にさらされています。彼らの生活もまた、人工的でケミカルなものだと言えるでしょう。大理石のカウンターがあるバーで飲んだり、輸入和牛のレストランで食事をしたり、ケミカルに強化されたサラダを食べたり。そして、革で縛られた足で金属やプラスチック、コンクリートの上を歩いているのです。」都会生活者であるゲストにとって、希少で特別な体験を提供したいとソヌ氏は考えている。「私たちが提供するのは、可能な限り都市のシナリオから切り離した、都会のライフスタイルではできない体験です。だからこそ、ゲストが最初に行うことは靴を脱ぐこと(No Shoes)なのです。」
「私たちが提供するのは、可能な限り都市のシナリオから切り離した、都会のライフスタイルではできない体験です。だからこそ、ゲストが最初に行うことは靴を脱ぐこと(No Shoes)なのです。」

感動を生み出す舞台装置

確かにソネバでは、他では得られない希少な体験がゲストを待ち受けている。無人島で、他に誰もいない完全プライベートなピクニック。あるいは、海に長く突き出たサンドバンク(砂州)で、星空の下、ドラマティックなディナー。豊かで圧倒的な自然と一体になる体験から湧き上がってくるのは、心からの開放感。そして幸福感だ。環境と健康の双方に十分配慮された食事を楽しむことも、普段はなかなか味わえない希少な体験と言えるだろう。「最も人気のある料理は、特製ロケットサラダです。有機野菜は、島の農園で愛情を込めて育てています。環境にはまったく悪影響を与えていません。ゲストが口にするものには化学物質が全く含まれておらず、フェアトレードで持続可能な調達が行われています。その知識の元に、おいしい食事を楽しむことができるのです。」
このシンプルなサラダを食べることは、キャビア、フォアグラ、和牛などのグルメ料理よりも、希少で有益な食事体験である。最も健康的で、より持続可能性の高い選択こそが、ラグジュアリーの真髄である、とソヌ氏は考えている。
私たちのチョコレートルームでは、フェアトレードのダークチョコレートを提供しています。さらにワインリストには、バイオダイナミック農法によるワインが大半を占めています。」バイオダイナミック農法とは自然農法、有機栽培の一種で、環境型農業と呼ばれているものだ。子供達に人気のチョコレートルームでもソヌ氏の美学は浸透されているのだ。また、ソネバには、ユニークな体験を提供する施設も数多く用意されている。「私が気に入っているのは、屋外映画館、展望台、それに大きな屋外バスルームです。これはソネバのシグネチャーだと言っていい。まさにラグジュアリーなものだと思います。珍しいから高価というのではありません。提供する体験に希少性があるのです。こうしたホテルのサービスは、世界中の大都市にある最高のホテルやミシュランの星付きレストランにはまず見られないでしょう。」食事から施設や体験まで、細部にまで活かされているソヌ氏の美学。ソネバとは、ソヌ氏が仕組んだ希少な体験が感動を生み出す舞台装置なのだ。

インテリジェント・ラグジュアリーとは

真のラグジュアリーを完全に理解したいという強い願いから、ソヌ氏は「インテリジェント・ラグジュアリー」を追求し続けてきた。「私たちのリゾートでは、贅沢を楽しむために地球環境や健康を破壊してはならないのです。」「インテリジェント・ラグジュアリー」とは、「持続可能性」、「健康」、「ラグジュアリー」のどれかが損なわれたりせずに、すべてが成立していること上に成り立つ。それらは互いに補完し合い、同時に成立させることができると、ソヌ氏は固く信じている。
雨が降っていないときは、ゲストは全員外で食事をします。実際、レストランは森の中に1つあり、ゲストを運ぶケーブルカーや、ウェイターたちがテーブルに食事を運ぶ際に必要なワイヤーがあるのです。また、輸入した水は提供していません。その代わりに私たちのメニューでは、異なる癒しの結晶がそれぞれ入った6種類の精製水を提供しています。」環境を保護する目的で、リゾートにおけるゴミの再利用も徹底している。ところが、ワインボトルなどガラス製品については、リサイクルが難しいことがわかった。そこでソヌ氏は、ガラスアートの工房を作ることにした。ガラス片からアート作品を生み出すことによって、リサイクルを可能にしたのだ。さて、これでお分かりだろう。ソネバの「インテリジェント・ラグジュアリー」とは、単なる豪華さとは別次元にある。大自然に抱かれた環境で、都会ではめったにできない体験と細やかな配慮によるホスピタリティ。そこから得られるのは心地よさと感動。そして幸福感さえもたらしてくれる。環境を損なわず、心身ともに健康になれる場所。そこでは、持続可能性と健康と、ラグジュアリーがすべて満たされる。これこそが、ソヌ氏の考える「インテリジェント・ラグジュアリー」なのである。

進化のための絶え間ない挑戦

ソヌとエヴァの物語から始まり、すでに強力なソネバ・ブランドを作りあげたかに見えるソヌ氏。将来における課題はどのように捉えているのだろうか。「ブランドアイデンティティとDNAを維持するためには、ソネバ・ブランドを継続して成長・進化させていく必要があります。その中で、私たち独自の価値が希薄になっていくことは避けなければなりません。」まだ詳細は内密ということだが、リゾートの拡大計画についての発表も近々あるらしい。さらに進化するソネバの価値は、これからどのようなものへと向かうのか。その探求はゲストにとってだけでなく、ソヌ氏自身が心躍らせるものらしい。

「成長し進化させていく中で、ソネバ独自の価値をより高めていく。それこそが、今夢中になって取り組んでいる、私たちの挑戦なのです。」

遊び心満点なソネバジャニの客室。開閉式の天井やウォータースライダーを備えている部屋は、今やモルディブで最も有名といっても過言ではない。部屋の2階からスライダーを滑って、海へ直接ダイブする・・・
非日常や体験を大切にするソヌ氏だからこそ、考えつく夢のような客室である。
夜は天井を開放して、大切な人と満天の星空の下で眠る贅沢を。

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